導入
「学習鑑賞ポートフォリオ」の開発プロセスにおいて、最も議論を呼び、そして私たちの哲学が最も試された瞬間。それは、たった一つのボタンを削除するかどうかを決断した時でした。そのボタンとは、現代のインターネットにおけるコミュニケーションの象徴、**「いいね」ボタン**です。
この航海日誌は、単なる機能開発の裏話ではありません。それは、私たちの灯台が、なぜ「静か」であることにこだわるのか、その思想の根幹に関わる、一つの重要な物語です。
本質:「いいね」という、甘い毒
「いいね」ボタンは、インターネットの共通言語です。それは手軽な肯定であり、共感の証です。しかし、私たちの「鑑賞」という哲学のレンズを通して見つめ直した時、その光は、深い影を落としていることに気づきました。
「いいね」は、思考を停止させ、人気の序列を生み、静かな声をかき消す。それは、私たちの灯台にとって、甘美な歌声で船を惑わすセイレーンのような存在だったのです。
鑑賞:灯台は、人気投票の会場ではない
私たちのチームは、何時間も議論を重ねました。「少しぐらい、いいじゃないか」という意見もありました。しかし、私たちは原点に立ち返りました。「私たちが創りたいのは、人気を競う広場ではない。一人ひとりの声が、その大小に関わらず、等しく尊重される『聖域』である」と。
この結論に至った時、私たちの迷いは消えました。「いいね」ボタンを削除することは、私たちの哲学を守るための、必然の選択でした。その代わりに、私たちは**「一対一のまなざし」**と**「対等性」**という、二つの原則をコードに刻み込むことに全力を注いだのです。
洞察:沈黙の中に、咲いた花
「いいね」がなくなった空間には、何が生まれたでしょうか。それは、私たちが想像していた以上の、豊かで、温かい対話でした。
コメントは、以前よりずっと長くなりました。ワンクリックで済ませられないからこそ、人々は言葉を探し、相手の思考のプロセスに、より深く寄り添おうとし始めました。これまで発言が少なかった物静かな生徒が、誰の評価も気にすることなく、驚くほど鋭い考察を綴り始めました。
この経験が、私たちに贈ってくれた、最も重要な洞察。それは、**「沈黙は、空虚ではない。それは、深い思考と、誠実な言葉が育まれるための、豊かな土壌である」**という、一つのシンプルな真実です。
私たちの灯台から放たれる光は、時に、常識とは違う方向を照らすかもしれません。しかし、その光を信じて進んだ先にこそ、まだ誰も見たことのない、新しい景色が広がっている。私たちは、この小さなボタンの削除という決断から、そのことを学びました。