「助けてもらう」ことの豊かさ
現代社会では「自立」や「自己責任」が強く求められます。しかし、畠中恵氏の『しゃばけ』シリーズを読むと、その価値観が少し窮屈に思えてきます。主人公の若だんな・一太郎は、驚くほど体が弱く、一人では外出もままなりません。しかし、彼の周りにはいつも、彼を心配し、世話を焼きたがる妖(あやかし)たちが溢れています。 ここにあるのは、一方的な依存ではなく、温かな「共生」です。一太郎の弱さは、周囲の優しさを引き出し、妖たちに「守る」という役割(生きがい)を与えているのです。
【実践の価値】 - インクルーシブな問題解決
一太郎は体力では誰にも勝てませんが、知恵と優しさ、そして妖たちのネットワークを駆使して難事件を解決します。これは、個人の能力の限界を、チームの多様性で突破する現代のチームビルディングの理想形とも言えます。「できないこと」を認める勇気が、最強のチームを作る第一歩なのです。
【感情の価値】 - 異形のものたちへの慈しみ
妖たちは人間とは異なる理で動いていますが、一太郎は彼らを否定せず、あるがままを受け入れます。そのフラットな眼差しは、読む者の心にある偏見や差別意識を優しく溶かしてくれます。異なる存在と共に生きる楽しさが、ここにはあります。
【美的価値】 - 江戸の四季と情緒
物語を彩る江戸の風俗、季節の移ろい、そして美味しそうな菓子や料理の数々。日本語の美しさを活かした端正な文章は、読むだけでタイムスリップしたような心地よい没入感を与えてくれます。忙しない日常を忘れさせてくれる、極上の癒やしがここにあります。
灯台守より
鑑賞するとは、評価することではなく、その作品が灯す光を自分の中で受け取ることだと私は思っています。大創社はその光を、次の誰かへ届ける場所でありたい。