心に灯る物語

『とんでもスキルで異世界放浪メシ』— 胃袋を掴む、は世界を救うより偉大である

もし、異世界に召喚され、与えられたスキルが「ネットスーパー」だけだったら?『とんでもスキルで異世界放浪メシ』は、そんな一見地味な設定から始まる、最高に幸福な物語だ。これは、剣や魔法がすべてではないと教えてくれる物語。そして、温かい料理を共に囲むことこそが、あらゆる壁を超える最強のコミュニケーションなのだと、思い出させてくれる物語である。

最強のスキルは「ネットスーパー」

主人公ムコーダは、勇者としてではなく、うっかり巻き込まれて異世界にやってきた、ごく普通のサラリーマン。彼の固有スキルは、戦闘に役立つものではなく、現代日本の商品をネット通販で取り寄せられる「ネットスーパー」だった。彼は、早々に「勇者」の役割を放棄し、この世界で美味いものを食べて生きていくことを決意する。

本作を鑑賞する上で、まずこの主人公の「戦わない」という選択に、現代的な賢明さを感じる。彼は、与えられた役割に自分を当てはめるのではなく、自分のスキルで、どうすれば最も幸福に生きられるかを考え、実行する。その結果、彼の作る「生姜焼き」や「唐揚げ」が、伝説の魔獣の胃袋を掴み、最強の用心棒を手に入れることになるのだから、人生は何が幸いするか分からない。

我に、あの「肉の炒め物」を食わせろ。さすれば、汝の従者となってやろう。

食卓は、最高の外交の場である

ムコーダの旅には、次々と強力な仲間(主に食いしん坊の魔獣)が加わっていく。彼らを従わせるのは、力や契約ではない。ただ、ムコーダの作る美味しい料理だ。伝説のフェンリルも、生まれたばかりのスライムも、食卓を囲めば、ただの腹ペコな家族になる。

これは、食事が持つ根源的な力を、見事に描き出した「食卓外交」の物語だ。言葉が通じなくても、種族が違っても、共に美味しいものを食べれば、心は通い合う。難しい交渉や、複雑な駆け引きよりも、心のこもった手料理一皿の方が、よほど雄弁に相手の心を開くことがある。私たちは、そんな当たり前の真実を、つい忘れてしまいがちではないだろうか。

「日常」を旅する、という贅沢

この物語には、世界を救うという壮大な目的はない。彼らの旅の目的は、次の街で新しい食材を手に入れたり、景色の良い場所でキャンプをしたり、ただ「今日の晩ごはん、何にしようか」と考えることだ。しかし、その何気ない日常の営みこそが、この上なく豊かで、輝いて見える。

それは、私たちが生きる現実世界への、優しい眼差しを思い出させてくれる。大きな目標がなくたっていい。ただ、日々の食事を楽しみ、仲間との語らいを大切にする。そんな「スローライフ」な価値観を、本作は異世界という舞台を通して、最も贅沢な生き方として「鑑賞」させてくれるのだ。

あなたの「とんでもスキル」は何ですか?

あなたの持つ、一見すると地味で、戦闘の役には立たないような「とんでもスキル」は何だろうか。それは、美味しいコーヒーを淹れることかもしれないし、人の話をじっくり聞くことかもしれない。この物語は、そんな日常的なスキルの中にこそ、人と人を繋ぎ、世界を少しだけ温かくする、魔法のような力が宿っていると教えてくれる。さあ、今日は誰かのために、あなたの「とんでもスキル」を使ってみてはどうだろうか。

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この記事の著者

灯台守

(執筆・監修:MASATAKA)

大創社 コンテンツディレクター / AI共創ストラテジスト

20年以上のWeb開発・翻訳経験を持ち、言葉とテクノロジーの両方を扱う創造的な専門家。翻訳家(2003-)として『孫正義名語録 情熱篇』などを手掛け、2013年に大創社を創業。

「評価」ではなく「鑑賞」を軸とした独自の組織開発手法の開発者(特願取得済)。心理的安全性と創造性を育む「学習鑑賞ポートフォリオ」を通じて、教育機関・企業の変革を支援。

現在はAI共創戦略により、書籍9言語同時展開を実現。日々の思索と対話を通じて、世界に眠る可能性を探求し続けています。

鑑賞ポートフォリオ AI活用戦略 組織開発 教育工学 多言語翻訳

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