世の中には、ただ面白いという言葉だけでは到底表現しきれない物語が存在します。喜びや悲しみ、愛おしさや痛みといった感情のすべてを揺さぶり、鑑賞後、しばらく席を立てなくさせるような物語が。
吉田秋生の不朽の名作『BANANA FISH』は、まさにそうした作品の筆頭です。少女マンガという枠組みの中で、マフィアの抗争、薬物、性的搾取といった重いテーマを扱い、ハードボイルド・アクションとして見事に描き切った本作。しかし、その物語の核心にあるのは、あまりにも過酷な運命を背負った少年アッシュ・リンクスと、日本の大学生・奥村英二の、魂の結びつきです。
きみはひとりじゃない。ぼくがそばにいる。ぼくの魂は、いつもきみとともにある。
光と影が織りなす、唯一無二の関係性
本作を鑑賞する上で、私たちの心をとらえて離さないのは、アッシュと英二、二人の関係性そのものです。類まれな美貌と知性、戦闘能力を持ちながら、誰にも心を許さず、闇の中で生きてきたアッシュ。そんな彼の前に現れた、お人好しで純粋な英二。住む世界も、育ってきた環境も全く違う二人が、互いの中に自分にはないものを見出し、惹かれ合っていく過程は、必然のようであり、奇跡のようでもあります。
英二は、アッシュにとって唯一の「弱点」であり、同時に、彼が守りたかった唯一の「光」でした。このどうしようもなく切ない関係性を鑑賞することは、人間が誰かを想うことの根源的な美しさと、その残酷さを同時に味わうような体験なのです。
時代を超えて、今なお心を打つ理由
連載開始から数十年が経った今でも、『BANANA FISH』が色褪せることなく多くの人々の心を打ち続けるのはなぜでしょうか。それは、本作が描いているのが、単なるアクションや恋愛ではなく、「魂の救済」という普遍的なテーマだからに他なりません。
自分の力ではどうにもならない運命に翻弄され、傷つき、それでもなお、たった一つの安らぎを求めて手を伸ばす。その姿は、程度の差こそあれ、現代を生きる私たち自身の姿と重なります。大人が楽しめる、骨太で、深く、そして美しい物語を求めているのなら、この不朽の名作に触れないという選択肢はありません。