「生きる」とは、どういうことでしょうか。食事をすること、呼吸をすること、それだけが「生きる」ことの全てなのでしょうか。もし、痛みも、喜びも、そして死さえも経験しない存在がいたとしたら、それは「生きている」と言えるのでしょうか。
『聲の形』の作者・大今良時が描く『不滅のあなたへ』は、刺激を受けた物の姿へ変化できる、不死の存在「フシ」の物語です。最初はただの球体だったフシが、石、オオカミ、そして人間へと姿を変え、数多の出会いと、それと同じ数の死別を経験していく。その旅路は、私たちに「生きること」と「死ぬこと」の分かち難い関係を、静かに、しかし容赦なく突きつけます。
私の記憶になってくれて、ありがとう。
他者の死を記憶し、痛みを知る旅
本作を鑑賞する体験は、時に非常に過酷です。フシが出会い、絆を育んだ人々は、次々と彼の前から姿を消していきます。フシは、彼らの姿を写し取り、その能力を受け継ぐことができますが、それは同時に、彼らの死と、それに伴う激しい痛みを永遠に記憶し続けることでもありました。
しかし、この痛みの経験こそが、何も感じなかったフシに「心」を芽生えさせていくのです。他者の死を通して、命の温かさを知る。誰かを失う悲しみを通して、誰かと共に在ることの喜びを知る。この物語は、喪失の痛みこそが、私たちを人間たらしめているのだと、逆説的に教えてくれます。
あなたの記憶は、誰の中で生き続けるか
私たちは皆、限りある命を生きています。いつか必ず終わりが来るからこそ、今この瞬間が愛おしく、輝いて見えるのかもしれません。『不滅のあなたへ』は、不死の存在であるフシの視点を通して、その有限の命の尊さを、私たちに再認識させてくれます。
この壮大で哲学的な物語を鑑賞し終えた時、私たちはきっと考えるでしょう。自分は、誰の記憶の中に生き続けたいのか。そして、誰の記憶を、自分の心に刻んで生きていきたいのか、と。涙なしには見られない、しかし、見終えた後には、自分の生がより一層愛おしくなる。そんな不思議な力を持った傑作です。